会長からのメッセージ

世界一元

8月、9月という回向月(えこうづき)を経て、10月ともなりますと、ようやく秋の気配が身にしみるようになりました。

「記録的な猛暑」という言葉が日常茶飯事に使われたこの夏、私たち人類は新たな段階に入ったと認識せざるを得ない状況となったことは自明の理と言えましょう。

「新生かむながらのみち」というテーマを掲げ、本年を過ごして参りましたが、果たして「新生」は私ども「かむながらのみち」だけでよいのか。そもそも何のための「新生」か。「新生」とは、そもそも何なのか――あらためて、各々の胸に問うてみる必要がありそうです。

世界一元(せかいいちげん)

思想(しそう)、信仰(しんこう)や伝統立場(でんとうたちば)を異(こと)にする世界民族(せかいみんぞく)が真(しん)に解脱(げだつ)することは容易(ようい)なことではない。

力(ちから)を以(もっ)て威圧(いあつ)すれば屈服(くっぷく)し、利(り)を以(もっ)て誘(さそ)えば乗(じょう)じもするがそれらは一時的(いちじてき)の効果(こうかに過(す)ぎない。

心(こころ)あるものを真(しん)に自覚(じかく)せしめ、衷心天神地祇(ちゅうしんてんじんちぎ)の大御恵(おおみめぐみ)に報恩奉仕(ほうおんほうし)せしめるものは、思想(しそう)や宣伝(せんでん)の力(ちから)ではない、自身(じしん)をして天命(てんめい)と正道(せいどう)を悟(さと)らしむる信仰(しんこう)の力(ちから)である。

信仰(しんこう)のないものが信仰(しんこう)のあるものを導(みちび)くことは出来(でき)ない。信仰(しんこう)のあるものは自身(じしん)神(かみ)の導(みちび)きのままに正(ただ)しき道(みち)に従(したが)って来(く)る。従(したが)って正(ただ)しき神(かみ)を認知(にんち)せしむることが根本問題(こんぽんもんだい)である。

現在(げんざい)信仰(しんこう)を有(も)ち乍(なが)ら解脱(げだつ)の妙味(みょうみ)を体得(たいとく)せざるものは未(いま)だ正(ただ)しき信仰(しんこう)せるものということは出来(でき)ない。少(すく)なくとも其(そ)の信仰(しんこう)は不純不徹底(ふじゅんふてってい)のものと謂(い)わねばならぬ。何(なん)となれば、正(ただ)しき信仰(しんこう)は必(かなら)ず正(ただ)しき道(みち)を知(し)らしめ之(これ)に随順協力(ずいじゅんきょうりょく)すべきことを指教(しきょう)する筈(はず)だからである。

さて、皆様と読み進めて参りました『真行』も、最後の一節を残すのみとなりました。今回は、その「世界一元」の前半部分に当たります。おっしゃられている内容は、それほど難しくはありません。ですが、このシリーズの初期の頃、再三申し上げましたように、この『真行』という御本が出された時期を是非、考えてみていただきたいのです。

昭和17年5月5日――すなわちその前年末に大東亜戦争が勃発し、いまだ日本軍の連戦連勝が盛んに報じられていた頃。軍部は幅をきかせ、少しでも戦争に疑念を持つような言動を表わした者は「非国民」と決めつけられ、時には憲兵による逮捕・拷問まであった時代です。そのような時、道祖は日本民族が勝利することではなく、「世界民族が真に解脱すること」を眼目とし、そのためには「力を以て威圧すれば屈服し、利を以て誘えば乗じもするがそれらは一時的の効果に過ぎない」、すなわち戦争だけでは根本的な解決にはならないと喝破されたのです。

さらに、その根本的な解決を得るのは、ひとえに正しき「信仰の力」であるとした上で、「現在信仰を有ち乍ら解脱の妙味を体得せざるものは未だ正しき信仰せるものということは出来ない。少なくとも其の信仰は不純不徹底のものと謂わねばならぬ」とまで言われました。これが暗に当時の世の風潮、特に軍部やマスコミ、果ては宗教界にまで至る痛烈な批判であることは誰の目にも明らかでありましょう。

ひるがえって、道祖の御皇室に対する敬愛は実に深いものがありました。うわべだけの信仰心を掲げ、自身の利益と売名にいそしむ集団から超越し、ただひたすら世界平和を願い、この戦争もただその平和の礎たるべく、やむなく遂行されていることを自覚し、1日も早い終結を願っていた御皇室、昭和天皇陛下の祈りこそが、我々国民の希望であり、真のお手本であると道祖は常々おっしゃられていました。

その御皇室の純粋な想いを汚し、自身の欲望のために利用せんとする輩(やから)がいることも承知した上で、ただひたすら国民の幸せを願う陛下。そのような陛下の身を案じ、国民として真に御皇室の弥栄(いやさか)を祈ること。そういった御皇室と国民とがお互いに祈り合う姿こそ、日本の国柄、「国体(こくたい)」であると、道祖はこの『真行』の最後に、私どもにお伝えされているように拝察致します。

これは私自身の体験になりますが、今から9年前、大東亜戦争終結70年という年、それまで終戦の日は靖國神社へと参拝し、先の大戦で犠牲となられたすべての御霊への祈りを捧げる機会とさせていただいていたのですが、近年あまりにも街頭で自身の主張を声高に叫ぶ風潮に違和感を覚えたことが始まりでした。

その年、お盆が始まる直前、私は全身の痛みを覚え、気がつけば体中が真っ赤にふくれあがっていました。まるで火に焼かれたようで、嫌が応でも先の大戦で浮かばれない御霊の念が私の身にお知らせいただいていることを、文字通り体で実感しました。

そこで、私は靖國への参拝を別の機会とし、8月15日は本部・成就院において怨親平等の大供養を厳修することにしたのです。

御霊の想いを真摯に受け止め、さらに日本国の英霊だけではなく、世界各国でこの大戦で命を落とされたすべての御霊――敵味方の区別なく怨親平等の供養をせよ、という道祖のみ教えを体現するのは、まさにここだと悟り、道祖、そして畏れながら代々の御皇室が常に願われていた世界平和を祈る機会として、全国会員と共に勤めさせていただきました。

そして法要が終わった直後、背中を見たら、先の火ぶくれのような腫れが嘘のように消えておさまっていたのです。

見えない世界と見える世界はつながっている。顕幽一如ということを、私どもは常に説かせていただいておりますが、それは単なる理論理屈ではなく、このように実際に私どもの身の周りに起きてくる事実なのです。むしろ、いま現に起きている事柄のすべては、見えない世界に根本がある。

いま現に苦しみ、悩んでいるとしたら、それと同じ苦しみ、悩みを抱えている御霊がいらっしゃる。

だからこそ、まずは「祈り」から始まる。そのような真理――神理を、どうか会員の皆様はあらためて胸に刻み込んでいただきたいのです。

今年のパリ・オリンピックで、ある女子卓球選手が語ったコメントが話題となりました。「(オリンピックを終えた今)鹿児島の特攻資料館に行って、生きていること、そして自分が卓球がこうやって当たり前にできていることというのが、当たり前じゃないというのを感じてみたい」――鹿児島には「知覧特攻平和会館」を始め、日本軍の特別攻撃隊に関する施設がいくつかあることは、おそらく大人でも知らない人が多いのではないでしょうか。ですが、この発言に対し、韓国・中国等からのバッシング、さらには日本国内からも、それを否定するような発言が見られました。

正直、私は悲しくなりました。これからの未来を担う若い世代の、しかも一流のアスリートが、先の大戦の教訓を真摯に受け止め、自身の生き方へと活かそうという発言に、何を否定するものがあるのかと……

ただ、このようにも思いました。だからこそ「怨親平等の供養」なのだと。まだまだ敵味方の想念に囚われている浮かばれない御霊が数多くいらっしゃる。その御霊が鎮まらない限り、決してこのような「争い」はおさまらない。だからこそ、まずは私たち会員から日々真剣に祈り、祈り、また祈ることが責務なのだと――

「世界一元」とは、決して世の中を一つの思想主義主張で埋め尽くそうなどというものではなく、それぞれがお互いの違いを認め合い、譲り合い、そうして共存していく道行きのことです。

その実現のためには、すべての命を大元から支えていらっしゃる神仏への崇敬、根源への祈りが無ければならない。もちろんこのようなごく当たり前のことを、殊更に伝えていかねばならないほど、世の中は乱れ、人心は荒廃してきたことも事実です。が、その事実を正面から受け止め、先月私が申し上げたように「1・5・20」の法則――たとえ世の中の1%でもいい、目覚めた人が動き、5%で世に認知され、20%に至れば世の中が実際に変わる――この普遍・不変の法則のもとに、まず私たち自身の祈りから始めるのです。

10月は世の中では「神無月(かんなづき)」といって、すべての神様が出雲へと行かれる、ゆえに出雲では、この月を「神在月(かみありづき)」と言うと伺っておりますが、まさにこの月に私どもの新本部道場では神々の「遷座式」、そして御本尊である大日如来の開眼法要が営まれます。まさに神仏がこの新道場に降りられる大切な月です。そして、来月には全国の皆さまへお披露目という形で、立教25周年・新本部道場落慶の記念式典並びに祝賀会が行なわれます。

この「新生かむながらのみち」を祝うのは、すべて己自身の生まれ変わりのためであり、同時に人類全体の新生を切願し、共にその新生を実現する第一歩たらんとする決意のためであります。どうか全国会員の皆様が集い、祈りの結集(けつじゅう)、そしてその祈りの輪が拡がっていくことを切に願っております。それまで日々、自身の家庭・天職の中で、お互い様に更なる精進を続けて参りましょう。

-会長からのメッセージ

Copyright© かむながらのみち , 2024 All Rights Reserved.