道祖・解脱金剛尊者のお話に、次のようなものがございます。
ある時、道祖はお手元にある紙幣を一枚一枚、丁寧にしわを伸ばしながら、周りにいる方にこうおっしゃられました。
「皆さん、お金はお宝であるから、大切しなければならない。お金は大事に扱う人の心をよく知っていて、その人のところへは集まって来ようとするが、粗末に扱う人は嫌いで、入ってもすぐに出て行く。
私はお金の気持ちをよく心得ているから大事にする。お金は持つ人の徳によって一時お預かりしているものなので、自分のものではない。お金の値打ちはどこにあるかと言えば、使った時一回だけ、十円は十円、百円は百円だけ(当時は十円札、百円札という紙幣がありました)の値打があるので、溜めておいては値打ちがないのである。生かして有効に使う、出せば入る、お金に運動をさせる。相手も自分も、お金も共に喜ぶような捧げ方が大切であると思う」。
このようなお話で、物の大切さ、物の生かし方をおさとしくださいました。
また、次のようなお話もございます。
日頃から道祖についてみ教えを熱心に学んでいた青年が、戦時中のこととて、とうとう召集令状が届き、戦地へと赴かなければならなくなりました。
その令状を受け取ったのがたまたま仕事中で、彼は旋盤工(せんばんこう)をしておりました。彼はその時、仕事の手を休め、うやうやしく礼状を受け取ると、職場にこもったきり一時間も二時間も出て来なかったそうです。
心配した同僚が様子を見にいくと、彼は一心に機械を磨いていました。そして、「この旋盤は、永年私と共に働いてくれました。大恩があります。召集とはいいながら、このままでは別れられません。せめて掃除くらいさせていただかねば相すみません。いま全部分解して掃除を終わり、再び組み立てて試運転を済ませました。付属の道具もここに揃えてあります。では、ただいまから行って参ります」と、機械に向かい合掌礼拝したそうです。
その後、その青年は道祖のもとへご挨拶にあがり、そのまま戦地へと出向かれたとのことです。
戦争という特殊な状況の中ではありますが、このような物を大切にさせていただく心、物にこそ感謝報恩の思いを持つ、この青年のやさしい心根を私たちも見習いたいものです。
私たち信仰者は、神仏、御霊といった見えない世界を重んじ、そこに手を合わせる祈りを基とした生活を営んでおります。では、その祈った結果、どのように生き方が変わるかというと、端的に言えば、先の二つのエピソードのように、人や物を大切にする生き方になるということです。
これまでの勉強でも再三、お伝えがありますように、今の世界に求められているのは「浄化」であり「みそぎ」です。「みそぎ」とは「身削ぎ」であり、余計なものをなくすということです。削ぎ落とすということです。
但し、それは何も「断捨離(だんしゃり)」といったように何でもかんでも捨ててしまうという意味ではなく、一つ一つの物を大切にするライフスタイルへと変えていくこと。使わない物、無駄な物は、どうか他のところでお役に立っていただけるよう、再生させることです。
物を生かし、心を生かし、社会を生かし、国家を生かし、観るもの、聞くもの、触れるもの、総てを生かしゆく誠こそ、即ち自ら生きる道であります。そこに解脱の報恩感謝の生活があります。
物にも感謝です。逆に、いまの自分を支えてくださっている身のまわりの物に感謝できない人が、どうして人や世の中に感謝ができるでしょう。幸せに生きられるでしょう。
食べ物についても、同じです。今のこの状況下において、人と人とのつながりの大切さについて人々の目が開かれてきていますが、どうかそれが物や自然へと広がっていくことを私は切に願っています。
道祖は戦中、そして戦後の混乱期も、常に商売・産業についてのご指導を熱心に行なわれました。その際、必ずといっていいほど口にされていたのが、目先の利益にとらわれることなく、与えて求めぬ太陽の心で人様のために尽くせ、そうすれば利益はおのずとついてくる、ということでした。
今このような状況下、道祖であればどのようなご指導をなさるだろう、神仏はどのようなことを私に望んでいらっしゃるのだろう――常にそのような思いを持ち、お互い様に日々の生活行に励んでいきたいものです。
暑い夏も終わり、秋が近づくにつれ、これから世の中や身のまわりにもさらに激しい変化が待ち受けていることでしょう。そのような中でも、一つ一つに感謝の心を忘れない。自分や家族、身のまわりを支えてくださっている人や物に、今このような時だからこそ、どれだけ感謝の念を持てるか。まさに試されている時節だということを感じます。
事態を正しく見つめる冷静さと、常に真の目的を見失わない情熱をもって、これからも生きて参りましょう。
かむながらのみちとは、神と共にある道です。神の心を心として、自然万物を生かしゆく道です。
今年のお彼岸は、特別に理趣三昧供養を各ご家庭に配信し、共に祈りを捧げさせていただくことができます。また、秋の感謝祭も映像配信によることで、これまで二日に分けて行なっていたところを、10月18日に全国の皆さんと共に思いを一つにすることができる尊い機会にすることが叶いました。
一つ一つに感謝の思いを抱いて進めば、必ずこれまでとは違った新しい世界が開けて参ります。お互い様に祈りと学びを深めて参りましょう。